「花楡」 島 なおみ
曇天をひとすぢ昇る気象観測用凧に降るはじめての水
口笛を吹けば工事のクレーンが首を下ろしてくる夕まぐれ
とこしへの地図があります水鳥は廃川地なるビル群を飛ぶ
写真剥ぐ音はりはりと響かせてあなたの指の熱のはなびら
なんとなう韃靼海峡 若き祖父の写真が縦に裂かれゆくとき
動物の影をかたどる焼菓子はセレンゲテイの夕陽を知らず
地図を閉ぢて強く振つてもつと振ってもつともつと振つてもまざらぬ世界
パタゴニアンツースフイツシユを銀むつとして咀嚼するわれらの日日は
はるびんのはなにれ祖父のはるにれと唱へて洗へば墓はかがやく
菜種梅雨ときみが言ふ日の花ばたけ 半島の上あめあめふるふる
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「さまよえる歌人の会」の番外歌会に出した8首です。
先日、荻原裕幸さんのブログに掲載していただいたものと同じシリーズです。
感想・批評などいただければ幸いです。
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