a crossing 第3回の作品ゲストは、杉森多佳子さんです。
指 杉森多佳子
ホッチキスを針がないまま押しあてた瑕のごときが春には疼く
もう雨は止んでいるのにわたしだけ(握っていたい)透く傘を差す
いらだちをなだめいる夜 円錐にととのえて盛る山葵のみどり
見えない棘のあとを自分だけかかえて春になってしまったような、そんな印象を受けました。
どうぞお楽しみください。ご感想などありましたら、気楽にコメントを残していってください。
歌評は、菊池裕さんの予定です。
●杉森多佳子(すぎもり・たかこ)
1962年生まれ。「中部短歌」を経て「未来短歌会」会員。歌集『忍冬 ハネーサックル』(風媒社)
HP http://blog.goo.ne.jp/tubamenotame-kazahananotame/
歌集 http://www.fubaisha.com/search.cgi?mode=close_up&isbn=2063-0
*a crossing 今回より掲載形式を変えました。作品コラムの下に、別コラムで歌評のコラムがつづきます。
たしかに、「山葵のみどり」という語順によって焦点を絞っていき、あざやかさを増す感じですね。
第一首の感想、補足します。「ホッチキスを針がないまま押し当てた瑕」とは、手術跡ではないかと思ったのです。最近はホッチキスの縫合があるそうですね。ならば「指」はどこにあるかというと、瑕をなでているのかもしれないと。ただし、一首の中にそれを決定付ける情報はありませんね。
投稿情報: (た) | 2008年3 月22日 (土) 22:29
たさん
すっかりレスポンスが遅くなってしまいました。いつもながら丁寧な短歌の読み解きをありがとうございます。
書き込みしていただけると、すっごく嬉しいです!
疼くという言葉のひびき、たさんのコメントを読ませていただき、たしかにそうだなあと思いました。
鳥曇り、花曇りといううつくしい言葉が春にはありますが、杉森さんが歌のなかに選んだ言葉のかずかずも、そんな春独特のメランコリックな響きをもっているように思えますね。
3首目、みどりの山葵、とせずに、山葵のみどりとなっているところ、視覚にツーンと「みどり」が効きませんでしたか?
わたしは効きました(笑)
投稿情報: 島なおみ | 2008年3 月20日 (木) 17:51
三首とも、強烈な語句は少なく、破裂音も少ない。柔らかい響きが感じられる。二首目までは結句が[u]で終わり、憂さを感じる。三首目は[i]で終わり、憂さが少しやわらげられる。春の到来を待ち望んでいるということだろうか。
一首目、「ホッチキス」は、初句5音でまとめるなら「ホチキス」とできるところを、字余りにして含みを持たせているのか。検索したところ、ホッチキスは機関銃の発明者が同様の機構を利用したものらしい。破裂音[k]で始まる強い語「瑕」からも銃が連想される。「瑕」がこの一首の中心であると感じられる。結句は「u-dzu-ku]で[u]の暗さを感じる。[ho]ッチキス,[ha]り,[ha]る のリズムが感じられる。「ごとき」心「が」疼くのか。
二首目、「もう」「止んで」「わたし」「握って」、語頭の子音が柔らかい。「透く」傘から、空を見ているのだろうか。“可還珍惜那往日雨中”という流行歌の歌詞を連想した。その歌詞の中では、虹を見る設定になっている。「す」くか「さ」を「さ」「す」、[s]と[a],[u]のリズムを感じる。
三首目、「山葵」という語はオマージュだろうか。い「る」よ「る」、二句切れ、リズムが整っている。円錐にみどりを「ととのえて盛る」、芽吹きを祈っているように見える。五七調の重さが思いを示しているのか。「山葵のみどり」、3+1+3で五七調の重さを軽く終わらせている。Eine Kleine Nachtmusikの第二楽章、最後の一小節のようだ。
投稿情報: (た) | 2008年3 月14日 (金) 17:57